製造業DXは「現場」から「全社」へ──3,815件の事例から見えた7部門のDXとデータ連携

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調査背景と目的

株式会社パブリカが運営する「ものづくり新聞」は、世界の製造業DX事例を継続的に収集・分類する「製造業DX事例データベース」に基づき、リアルな課題と解決策を紐解くレポートを配信しています。2026年7月現在、同データベースには約4,000件の製造業DX関連事例が蓄積されています。

今回の分析では、データベース内の整理データ3,815件を対象に、設計・開発、製造、品質、保全、調達・SCM、営業・顧客接点、経営・全社基盤の7部門に分け、各部門でどのようなDXテーマが広がっているかを整理しました。

部門別に見た製造業DXテーマ

製造業DXは、生産現場だけでなく、設計、品質、保全、調達、営業、経営にまで拡大しています。各部門のDXテーマは異なりますが、共通して部門内の業務改善に留まらず、データを通じて他部門と連携する方向へ進んでいます。

部門 関連事例件数 主なDXテーマ ポイント
設計・開発 1,099件 PLM、CAE、生成AI、CAD/3Dデータ、BOM、デジタルスレッド 設計データや技術文書をつなぎ、設計変更・検証・エンジニアリングチェーン全体の高度化を進める部門
製造 2,807件 MES、IoT、ロボット、自動化、設備データ、現場見える化 生産現場のデータを取得し、工程、設備、人、ロボットをつないで現場改善や自動化につなげる部門
品質 630件 AI検査、品質データ、異常検知、画像認識、トレーサビリティ 検査自動化だけでなく、品質データを蓄積・分析し、不良要因の特定や工程改善につなげる部門
保全 421件 予兆保全、設備監視、保全履歴、点検支援、遠隔監視 設備状態や保全履歴をデータ化し、停止リスクの低減、点検効率化、技能継承につなげる部門。
調達・SCM 565件 需要予測、在庫、物流、調達DX、サプライチェーン可視化 需要・供給・在庫・物流を横断的に見える化し、変動に強いサプライチェーン運営につなげる部門。
営業・顧客接点 1,426件 CRM、生成AI、顧客データ、問い合わせ対応、デジタル販売 顧客データや生成AIを活用し、営業提案、問い合わせ対応、デジタル販売、顧客体験の高度化を進める部門。
経営・全社基盤 1,371件 ERP、BI、データ基盤、クラウド、経営ダッシュボード、全社標準化 部門をまたぐデータ基盤や業務基盤を整備し、経営判断、全社標準化、AI活用の土台をつくる領域。

設計・開発:PLM、CAE、生成AI、CAD/3Dデータ、BOM、デジタルスレッド

代表事例として、ヴァレオの「ダッソー・システムズ3DEXPERIENCEプラットフォーム導入による研究開発全面デジタル化」や、RICOSの「自動車・製造業で実証進むCAE×AI」などがあります。これらの取り組みは、設計・開発のDXにおいて、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることを示しています。

製造:MES、IoT、ロボット、自動化、設備データ、現場見える化

代表事例には、ニチレイの「スマートファクトリーでAI画像認識による自動検品を実現」や、現代自動車の「HMGICS(Hyundai Motor Group Innovation Center Singapore)の開設 – メタファクトリーの構築」、美的集団の「荊州洗濯機工場AI Agent Factory:”Factory Brain” による完全自律運用」が挙げられます。製造のDXでは、生産現場の効率化に加えて、他部門とのデータ連携による全体最適化が目指されています。

品質:AI検査、品質データ、異常検知、画像認識、トレーサビリティ

制御機器部品メーカーのAI Fine Matching技術による外観検査自動化や、マルハニチロの「カット野菜用AI外観検査装置「TESRAY Gシリーズ」の導入」、フレックスのAI/MLを活用した電子製品検査・テストプロセス最適化などが代表事例です。品質のDXでは、検査の自動化だけでなく、品質データの蓄積・分析を通じた不良要因特定や工程改善が重要視されています。

保全:予兆保全、設備監視、保全履歴、点検支援、遠隔監視

日立製作所の時系列基盤モデルによる予知保全適用でダウンタイム半減、セラミックタイル製造企業におけるマルチエージェント系による予知保全システム、BlueScope SteelのSiemens Senseye予知保全ソリューション導入が代表事例です。保全のDXは、設備状態や保全履歴のデータ化により、停止リスク低減や点検効率化、技能継承に貢献しています。

調達・SCM:需要予測、在庫、物流、調達DX、サプライチェーン可視化

AlbertsonsのAfresh AI駆動型フレッシュ補充・インベントリソリューション、ヴァレオのo9デジタルブレイン・プラットフォームによるグローバルサプライチェーン変革、コカ・コーラの北米サプライチェーンデジタル化(ロボティクス・AI活用)などが代表事例です。調達・SCMのDXは、需要・供給・在庫・物流の横断的な可視化を通じて、変動に強いサプライチェーン運営を目指しています。

営業・顧客接点:CRM、生成AI、顧客データ、問い合わせ対応、デジタル販売

株式会社トプコンの「グローバルERP・CRM統合による営業・マーケティングDX」、タタ・スチールの「営業DX戦略:AASHIYANA(B2C)、COMPASS(B2B)、DigECA(B2ECA)プラットフォーム展開」、キリンホールディングスの従業員向け生成AIツール「BuddyAI」の開発と展開が代表事例です。営業・顧客接点のDXでは、顧客データや生成AIを活用し、営業提案や顧客体験の高度化が進められています。

経営・全社基盤:ERP、BI、データ基盤、クラウド、経営ダッシュボード、全社標準化

原田伸銅所のSAP S/4HANA Cloudへの移行、BASFのSAP S/4HANA Cloud Private Editionへの戦略的移行、三菱電機のAmazon Web Services(AWS)との戦略的協業MOU締結などが代表事例です。経営・全社基盤のDXは、部門をまたぐデータ基盤や業務基盤を整備し、経営判断、全社標準化、AI活用の土台を構築する領域です。

分析から見えた3つの示唆

分析から見えた3つの示唆

  1. 製造業DXは「製造現場」だけではなく、全部門に広がっている
    公開事例から、製造現場のIoT、ロボット、自動化に加えて、設計のPLM・CAE、品質のAI検査、保全の予兆保全、調達・SCMの需要予測、営業のCRM・生成AI、経営のERP・BI・データ基盤など、部門ごとに異なるDXテーマが進展していることが示されました。

  2. 部門別DXは、最終的にはデータでつながる
    設計データ、製造データ、品質データ、設備データ、調達・在庫データ、顧客データ、経営データは、部門ごとに閉鎖的では十分な価値を生み出しません。事例分析からは、これらのデータを部門横断で活用することで、製造業DXの効果が高まることが明らかになりました。

  3. 部門ごとの課題を理解できるDX人材が重要になる
    部門別DXを推進するには、ツールや技術の知識だけでなく、各部門の業務課題を理解し、関係者を巻き込みながら、データと業務プロセスをつなぐ力が必要です。設計、製造、品質、保全、調達、営業、経営の間を橋渡しできる人材が、製造業DX推進の鍵となります。

今後の展開

ものづくり新聞では、製造業DX事例データベースを活用し、AI外観検査、品質データ分析、トレーサビリティ、予兆保全、スマートファクトリー、MES、PLM、生成AI活用など、製造業DXの主要テーマについて継続的に分析・発信を予定しています。

また、製造業向けDX教育事業「Innovation Maker Academy」やコンサルティング活動においても、実際の公開事例に基づき、企業ごとの課題に即した情報提供や学習コンテンツの拡充を進めていきます。

関連情報

  • 株式会社パブリカ
    製造業を中心としたコンサルティングサービス、製造業向けウェブメディア事業(ものづくり新聞)、製造業向けDX人材育成プログラム(Innovation Maker Academy)などを手掛けています。
    ウェブサイト: https://publica-inc.com/ja/

  • ものづくり新聞
    「ものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」を目指すウェブメディアです。国内外の製造業DX事例を継続的に収集・分析し、製造業の実務者が自社の取り組みに活用できる情報提供を行っています。
    ウェブサイト: https://makingthingsnews.com/

  • 製造業向けDX人材育成プログラム「Innovation Maker Academy」
    ものづくり新聞による知見をもとに、デジタル活用やDX推進課題に対して専門講師が講義やワークショップを実施。「ものをつくる人から、変革を動かす人へ」をコンセプトに、ツール導入ありきではない教育プログラムを提供しています。
    ウェブサイト: https://imacademy.jp/

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